描画を通したコミュニケーション: 人間不信を標榜しながらも, 他者とのつながりを希求する青年R氏の事例
DOI:
https://doi.org/10.14713/pcsp.v11i2.1907Keywords:
描画, 統合的心理療法, 日本人のクライエント, 治療的コミュニケーション, 治療関係, パーソナリティ障害Abstract
本事例研究は,介入開始時に18歳だったR氏との心理療法プロセスを報告する。6ヶ月のあいだに全10回の面接を実施した。当時,筆者は,臨床家としてまだ経験も浅く,一方では人を人として遇する態度,そしてもう一方では現実生活の場への適応を大切にする統合アプローチを思惟する最中であった。来談当初,R氏は,家庭内暴力がひどかった。異なる精神科医から,パーソナリティ障害,統合失調性情動障害,非定型の精神病等の診断がつけられていた。それまでの話すことを介した通常の心理療法も薬物療法も成果が上がらなかったため,筆者は,人を人として遇し,素直さと真剣さに特徴づけられる関係を作れるよう心がけ,感情を表すため一方法として描画を用いた。R氏が描いた一連の作品を本論文に提示した。これらには,歴史的人物が次々に描かれるが,その変移が治療的変化と並行している。心理療法を通して,R氏の攻撃性は和らぎ,筆者に対しても敵意ではなく,つながりと尊重を求める欲求からかかわるようになっていった。終結後40年近い年月が流れたあと,R氏のご家族が,別人のように落ち着きを取り戻し,平穏に暮らしていることを報告してくださった。筆者は,本事例のいくらか特異な臨床的判断についての根拠を(a)当時の日本における心理療法実践の文脈,(b)それまでのすべての治療を中断したR氏が当時求めていたこと,(c)R氏および彼のご家族と関連する他の要因との関連から述べる。
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