事例研究特集号¯はじめに 日本における事例研究:2つの方法,2つの世界観
DOI:
https://doi.org/10.14713/pcsp.v11i2.1906Keywords:
日本における心理療法, 系統的事例研究, 事例研究の方法論, 質的研究, 臨床的事例研究Abstract
PCSPの本特集号では日本における2つの事例研究を紹介し,続いて次々号では,異なる研究の背景を代表する4人の著名な心理学者のコメント,そのコメントに対する事例研究論文の執筆者の回答を紹介する。日本の臨床心理学はその歴史を通して心理療法における事例研究の中心的な役割と,実践・研究・訓練と事例研究の不可分性を強調してきた。臨床心理学の学術誌には数多くの事例研究が掲載され,そのため,多くの臨床家は専門家としての成長に資する活動として事例研究に携わっている。しかし,このように事例研究が臨床心理学の中心に据えられているにもかかわらず,その方法論的問題についての検討には結びついていない。何が良い事例研究を構成するのか,あるいはどんな種類のエビデンスや根拠が事例研究における妥当な推論のために必要なのかということはほとんどふれられてこなかった。日本の心理学における多種多様の事例研究は,一方に伝統的なナラティブ形式の臨床事例研究があり,もう一方にターゲットとされる症状の変化を客観的にモニターする科学的に厳密な一事例実験デザインがあり,その二極のあいだに位置づけられる。本特集号で,この二極の事例研究の形態の際立った例をそれぞれ提示する。本特集号に紹介する2つの事例研究は,系統的で厳密な事例研究が心理療法研究の一形態としてどのように行われ,報告されるのかということについての異なるモデルを表す。本特集では,(a)これらの方法論的な基準を満たすより多くの事例研究を奨励するため,(b)異なる事例研究の方法論についての議論を活気づけるために,これらの2つのモデルを合わせて提示する。
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